溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 ――連日続く雨は鬱陶しくて、無意識にため息が出る。
 気に入っているスーツのスラックスが濡れてしまったから、今夜中にクリーニングに出そう。

 客先との打ち合わせから戻る車中で、昼下がりの街角を眺めながら、この後の予定を並べる。

 新テナントの打ち合わせ、役員会議と来客……。

 予定を思い出していたら頭が痛くなってきた。忙しいことはありがたいし、暇なんて立場上ないようなものだとわかっていても、気分が高揚するようなことや癒される時間がなくて、文字通り忙殺されそうだ。


 大あくびをして、再び車窓に目を向けると、またしてもあの女がいた。
 信号を待っているらしく、前に見た地味な傘を差して、小さなバッグを持って出かけているようだ。
 この時間だから、ランチ帰りだろうか。

 だとしたら、この界隈で働いているのかもしれない。

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