溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 それ以来、名前も知らないその女をよく見かけるようになった。

 雨が降ると決まって現れるから、いつの間にか淡いベージュの傘ばかり探したりして。
 せめてもっと華やかな雰囲気を持つ人柄だったり、色鮮やかな傘を差していてくれたらいいのに、その両方がない女はあっという間に人混みに紛れてしまう。


 だけど、どうしてこんなに探してしまうのか、自分でも分からないまま。
 興味はないし、話したこともない。
 ただ電車で乗り合わせたことのある、ごく普通のOLなのに……どういうわけか忘れられなくて。


「一誠、素敵な話が舞い込んだぞ」
「また見合いですか」
「また、とはなんだ。お前がしっかりしないから、父さんたちが心配してるんじゃないか」

 会社にいれば、仕事に追われ。
 実家に行くと、縁談話を押しつけられる。

 快適なホテル暮らしは、誰にも邪魔されなくて快適だったのに、最近少しさみしく思うようになった。


 そして、そんな時にふと脳裏に浮かぶのは、携帯に登録している女友達じゃなくて、見ず知らずのあの女のことだった。

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