溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「片桐、番傘を出してくれ」
「かしこまりました」
社用車に載せていた番傘を差して、新宿の街を歩く。南口まで車を回しておいてもらうように頼み、小雨の中、和装で歩いて街の様子を探る。
三丁目界隈や南口を流し歩き、駅構内の入口に着いたところで、またあの女が現れた。
どうやら電車に乗ってきたらしく、改札を抜けようとして上手くいかなかったようだ。
後ずさって、切符売場を探しているのを見る限り、どんくさそうだ。
ハッキリ言って、惹かれるところはない。
だけど、なんだか気になって仕方なくて。
番傘越しに見つめるその姿は、放っておけない小動物のようにも見えた。
「……かわいいヤツ」
無意識に、ぼそっと呟いた自分の声に驚き、誰にも聞かれていないのに咳払いをしてごまかした。