溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
周りの社員は、取引先相手にどう対応するべきか考えている様子だ。
だけど、この場合は迷う必要などない。常務には冷静になっていただき、相手の女性に誠心誠意詫びるに限るだろう。それでも収拾つかない時は、なんとかして場を収めるしかない。
とにかく、俺が誰よりも冷静である必要がある。
「出水常務、ほどほどになさってください」
浴衣姿の女性に絡んで、その衿元に手を伸ばしている常務をたしなめる。
いい歳したオッサンが、酔ってなにやってんだよ……という愚痴は仕事用の微笑みの裏に隠した。
相手の女性はうちの社員だろうか。
小柄なその背中にスーツジャケットを掛け、周りからはだけた浴衣姿を隠してあげた。
割って入った俺に、常務は怪訝な目を向けているけれど、冷静に微笑んでみせたら、酔いが覚めたのか気まずそうにしている。
「大変申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、です……」
眼下にいる女性に詫びて、視線がぶつかって驚いた。
雨の日に見かける女が、俺を見上げて小さく震えていたからだ。