溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「八神さんは、ここに宿泊されているんですよね? それなのに、せっかくの時間にお邪魔してしまうのは、本当に申し訳ないので……」
だから、一刻も早くお暇しようと思っていて……。
「あなたは気を使いすぎですよ。大丈夫です、ここは私の住まいですから」
「えっ!?」
「と言っても、ずっとここで暮らすつもりはありませんが」
世間には、自宅を持たずにホテル住まいをする人がいると聞いたことがあった。
驚きがそのまま声になってしまった私に、麗しい微笑みが向けられて、鼓動が大きく飛び跳ねる。
「食事にしましょうか?」
「いえ、結構です」
憧れていた彼の自宅にいるなんて信じられず、感じていた空腹もすっかり紛れてしまった。
彼のような人には相応しいラグジュアリーな生活だけど、やっぱり私には遠い世界だ。高級ホテルで食事をするなんて、喉を通らないだろう。