溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
ソファの横に設けられた天板付きのラックに目を遣ると、二十二時を過ぎたデジタル時計があった。
「八神さん」
「はい」
「そろそろお暇しますね。あまり遅くならないうちに帰りたいので」
ソファから腰を上げようとしたら、後ろ手を引かれてしまった。
彼の素肌が初めて触れて、ドキドキと鳴り続けていた鼓動がスピードを上げる。
「こんな遅くに歩かせるわけにはいきません。なにかあったら、どうするんですか?」
「でも……」
「浴衣姿の女性は狙われるんですよ。今日のことで、身を以て分かっているはずです」
私みたいな地味系の女性でも、おじさんからしてみれば若い女の子に映るのだろう。そうじゃなければ、さっきのようなことはなかったはずで……。
またあんなことが起きたらと想像しただけで、背筋がぞっとしてしまい、思わず肩を竦めた。