溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 ただソファに座っているだけなのに、ドキドキして仕方ない。
 いずれ、八神さんも隣に座るのかな……。

 ダイニングチェアに並べられた浴衣を眺めていたら、少しは落ち着きを取り戻せるかと思ったけれど、結局彼のことばかり考えてしまう。

 ガウン姿で戻ってくるとしたら、さっきよりも大胆に胸元が開けられているかもしれない。
 そんな彼と目を合わせて話すなんて、きっと無理だ。

 それに、今夜はゆっくり眠れないだろう。
 別の部屋で横になるとしても、彼の生活に私がいる時点でことごとく現実味がない。


 やっぱり、帰ろうかな……。
 怒られるかもしれないけど、彼とはそもそも接点がなかったわけだし、お礼のメモを残しておけば、彼も納得してくれるだろう。


「どうしたの?」

 メモとペンを広いリビングの中を探していたら、ガウンを羽織った彼が戻ってきてしまった。
 予想通り、濡れた髪をタオルで拭く仕草すら特別なものに思える。


< 26 / 210 >

この作品をシェア

pagetop