溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
まじまじと見つめていると分かる彼の視線の強さに、微笑みから逃れた私は顔を上げられない。
「あの……」
「はい」
「なにを話して過ごしますか?」
沈黙にも耐えられず、楽しい話題も見つけられず、困り果てて問いかけた。
「三藤さんのこと、話しませんか?」
「私のことですか? なにについてでしょう?」
彼の提案が意外で、顔を跳ね上げる。
だって、八神さんが私に興味を持ってくれているなんて、夢のようだから。
名前の由来でも、地味なりにコツコツ続けている仕事のことでも、華やかさのない日常のことでも。
彼が知りたいと言ってくれたなら話したい。
聞いてから「つまらない」って思われるだろうけど、それでもいい。
「恋について」
「こ、恋!?」
万年片想いの私の恋愛なんて語ることなどない。
ファーストキスだって、大学生の時に飲み会で奪われてしまうという最悪な思い出で……。
だから、半年前からようやく輝きだしたといっても過言ではない。
八神さんに出会って、片想いでもこんなに充実した気持ちになれるって知ったんだから。