溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「私の恋愛事情なんて、取るに足りないことばかりです……。そ、それよりっ!」
「ん?」

 彼に聞きたいことが浮かんで話題を変えようとしている私に、穏やかな微笑みが向けられる。


「八神さんは、さっきみたいなことはよくされるんですか?」
「さっきみたいなこと?」
「あの、その……世間で言う“お姫様抱っこ”っていうアレです。それと、髪を撫でたり……」

 言葉にするのも気恥ずかしいのに、彼は慣れているように感じた。
 しかも、彼の気分がそうだったからという理由で私を横抱きにすることを厭わなかった。

 普通の大人の男性なら、これくらいはよくあることなのかな。


「そういう男だと思われてしまいましたか?」
「いえ、八神さんはとても優しい方と思ってますが……」

 否定も肯定もせず、彼が聞き返してきたから慌てふためき、的外れな答えを口にした。
 だけど、彼は表情を変えずに、凪のような穏やかさを保っていて。


「では、それが答えです」

 サイドテーブルを引き寄せて、芳醇なワインをひと口含んだ彼の横顔を見つめた。


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