溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 だけど――。


「俺に触れられるのは、嫌?」

 思いがけない問いかけに勢いよく顔を上げたら、私の答えを待つ誠実そうな瞳に囚われた。


「…………」

 言葉にせず、かぶりを振って返す。

 嫌だったら強引にでも帰っていた。
 嫌いな人だったら、花火大会で隣り合った時に嬉しいと感じなかった。

 こうして過ごしていることが奇跡のようだとも思わなかった。


「もっと触れていい? 咲を感じたい」
「っ!!」

 今度は答えを待たずに、吐息が重なる距離まで詰められて。

 頷いたら、唇が触れてしまう。
 だから、私は……まぶたを閉じて答えた。


 私も、八神さんをもっと知りたいし、感じたい。
 好きな人となら、キスをしてみたい。


 ――やわらかな唇が重なる瞬間、幸せな気持ちで夢のような世界に落ちた。


< 43 / 210 >

この作品をシェア

pagetop