溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
だけど――。
「俺に触れられるのは、嫌?」
思いがけない問いかけに勢いよく顔を上げたら、私の答えを待つ誠実そうな瞳に囚われた。
「…………」
言葉にせず、かぶりを振って返す。
嫌だったら強引にでも帰っていた。
嫌いな人だったら、花火大会で隣り合った時に嬉しいと感じなかった。
こうして過ごしていることが奇跡のようだとも思わなかった。
「もっと触れていい? 咲を感じたい」
「っ!!」
今度は答えを待たずに、吐息が重なる距離まで詰められて。
頷いたら、唇が触れてしまう。
だから、私は……まぶたを閉じて答えた。
私も、八神さんをもっと知りたいし、感じたい。
好きな人となら、キスをしてみたい。
――やわらかな唇が重なる瞬間、幸せな気持ちで夢のような世界に落ちた。