溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 今日もほぼ定時で帰宅して、A4サイズの書類がすっぽり入る通勤用バッグから封筒を取り出した。

 すぐに開封することなく、いつも通りの生活をする。
 手洗いうがいをして、秋風で冷えた身体を味噌汁で温める。ひとり暮らしの食卓は、今日も静かだ。


 会社から電車で三十分、築十五年のワンルームマンション。
 十畳の広さも、家具を置いたら手狭だ。

 ダイニングとリビングなんて洒落た間取りはなく、ベッドを背もたれに食事を済ませる。


 ふと視線をベッドに向ければ、放った封筒が目に入った。

 開けたら最後と言わんばかりに、密封シールが仰々しい。おかげで触れることさえ勇気が要る。


 とはいえ、見ないで当日を迎えることは不可能だ。
 受けてしまったからには日時や場所を確認しなくてはいけない。

 なによりも、肝心の相手を知らずにいるなんて失礼すぎると思い、重苦しいため息をひとつついてから封を切った。


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