生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

64.生贄姫は大魔導師と謁見を果たす。

「と、言うわけで私の勝ちです」

 客席から闘技場に降りて来た4人に向けてリーリエは声をかける。
 リーリエは音もなく歩き、そして猫耳フードの少女の前に傅く。

「お話聞いて頂けますか? 大魔導師様」

「はっ!?」

「えっーー?? 大魔導師ってこの子どもが!!!?」

 テオドールとゼノは大魔導師に会った事がなかったらしく、驚いたようにリーリエと銀髪の少女を見つめる。

「どうして、フィーが大魔導師って分かったの?」

 きょとんと小首を傾げて尋ねる動作は美少女そのもので、あまりの可愛さにリーリエはぐっとときめく。

「私なら、そうするからです。いくら王太子殿下の推薦があったとしても、得体もしれない魔術師に正面から会おうとは思わない。でも、会うに値するか確認するためには近くで見たい。大魔導師様も、その容姿を隠れ蓑にされているのではないですか?」

 リーリエは自分の翡翠色の瞳を指差す。
 "劣等種"
 自分がそう呼ばれる瞳の色を利用して、相手を油断させるように、彼女もまた自分の幼さを利用している。

「ルーくんが言った通り、リーリエ妃殿下賢い。フィー……見つかるって思ってなかった、よ?」

「恐れ入ります。改めまして、カナン王国が魔術師リーリエ・アシュレイと申し上げます。魔術師としては旧姓登録しかしておりませんので、この名で名乗ることをご容赦ください。大魔導師様のご尊顔を拝謁する栄誉を賜り、身に余る光栄に存じます」

 リーリエはそう言って魔術師として最大限の礼を尽くす。

「君は……魔術師なんだね。ラビ、チシャ。準備して。話、聞く」

「フィオナ様!」

「魔術師と話すことなど」

「ラビ負けた。約束守らないの、めっ!! そもそも、フィー最初から会うって言った。二人がうるさいから、意見通した。勝敗ついた。文句、ある?」

 無表情のまま淡々とそう話し、二人を黙らせると、少女はリーリエの方を見てぺこりと礼をする。

「アルカナ王国第一騎士団所属大魔導師フィオナ・クローディア。長いからフィーでいい。敬称不要。フィーもリリって呼ぶことにする」

「承知いたしました。では、どうぞリリとお呼びください」

 リーリエは了承し、立ち上がる。

「それじゃー研究棟にレッツゴー!」

 フィオナと名乗った大魔導師はウサギの人形を振り回し、ローテンションでそう言った。
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