生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

73.生贄姫は最適解を見つけ出す。

 テオドールは彼女の生きてきた18年を想う。今聞いたそれらは彼女を構成するほんの一部なのだろうけれど。

「リーリエが、随分大事に育てられたのだということは分かった」

 リーリエが家族を愛しているように、リーリエもまた家族に愛されていた。そんな彼女を家族はどんな思いでアルカナ王国に送ったのか、テオドールには想像がつかない。
 だが、リーリエがその役目を終えたなら、彼女がそう願うなら、自分のエゴで引き留めるのではなくリーリエを家族のものに帰してやることが一番なのかもしれない、とも思った。

「どうして、そんな悲しそうな顔をするのですか?」

 リーリエはテオドールの頬に触れる。

「家族から、リーリエを奪ってしまったな、と」

「ふふ、変な旦那さま。私の家族なら、ここにいるじゃありませんか?」

 あなたが私の家族でしょう? とリーリエは笑う。
 推しに触れてはいけないのに。
 いつか手を離さなくてはいけないのに。
 そう思いながら、リーリエはテオドールに触れてみたいと思ってしまう。
 この衝動は、一体なんだろう?
 その感情がリーリエの中で形作るより早く、リーリエは急に思いつき声をあげてテオドールの手を握る。

「どうした?」

「旦那さま、私のために何かしたいって言いましたよね? やっぱりさっきの慰謝料もらってもいいですか?」

 慰謝料案件、に話が急に戻りテオドールは疑問符を浮かべる。

「私、旦那さまが欲しいです」

「はっ?」

 リーリエの唐突な発言に固まるテオドールにリーリエはテオドールの心臓付近魔力の流れを司る魔脈を指す。

「師匠の話をしていて、思い出しました。”使えるものは何でも使え””足りなければもってこい””有るものを組み合わせろ”魔術式の最適解、見つけたかもしれません。でも、私だと実験するために魔力が足りません。というわけで、旦那さま。魔力、ください。なんで気づかなかったのかしら? ここにあるじゃない! 高水準の測定不能レベルの魔力がっ!!」

 若干興奮気味にそういうリーリエに頭痛がするかのように頭を抱えるテオドール。
 紛らわしい言い方するなとリーリエの額を小突きたくなる。
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