生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

99.生贄姫はデートを満喫する。

 デート、と言っても本当に特別に何か目的があるわけではなく、城下街の散策がメインで上機嫌なリーリエに手を引かれるがまま、彼女の行きたいところに付き合った。

「テオ、見て見て! すっごく、可愛い」

 口調が敬語で、敬称をつけて呼ぶのは馴染まないからという理由で、愛称、呼び捨て、敬語なし縛りでの会話となっているが、リーリエとの距離の近さが心地よく、むしろいつもこれでも構わないとテオドールは思う。

「ぬいぐるみ、って歳でもないだろ」

「いいの! ね、射的勝負しよ! 負けた方が、お昼ごはん奢りね」

「勝負、な。負ける気がしない」

 くるくるとよく変わる表情で、散策を楽しむリーリエはいつもよりずっと自由で、今まで見てきた彼女とはどれも違う一面だった。

 ちなみに射的は本気を出し過ぎたテオドールが全ての商品を落としてしまい、店から追い出された。

「テオ、大人げないの〜」

 ブツブツ文句をいいながら、リーリエは通りの出店で約束通りお昼ごはんを奢る。
 リーリエが選んだのは、今王都で流行っているらしいクレープ生地に様々な具材が挟んである軽食。
 人気だというものを2種類購入してみて、ひとつをテオドールに渡す。
 普段なら食べ歩きなんて絶対許されないが、今日はただの都民に扮しているので、他の人に倣ってそのままかぶりつく。

「うわっ、コレすごく美味しい。テオの方は、どんなだった?」

 食べた感じはクレープというよりガレットに近く、ボリュームがあるわりにはあっさりしていて思っていた以上に味が良かった。

「まぁ、それなりに」

 と言ったテオドールが、自分の分を差し出してくる。
 きょとんと見返してくるリーリエに、

「一口やる」

 と、なお勧めてくる。説明が面倒なので食べろという事らしい。
 でも、これテオドールが口つけた奴だよね? 食べていいの? 家族は有りなの? とリーリエがぐるぐる考えていると、

「代わりにこっちもらうから」

 そう言ってあっと思う間もなくリーリエが持っていた方を食べた。
 こっちの方が美味いなと口についたソースを拭いながらテオドールは感想を言う。

「ーー〜〜そ、そういう事、しなくてももう一つ買ってくればいいでしょ」

 しかもそこ私が食べたところなんですけどっと、リーリエが顔を赤くしながら抗議する。

「わざとに決まってんだろうが」

 揶揄うように笑うテオドールにそう言われ、リーリエは赤くなった顔を隠すように額に手をやる。

「た、食べ物で揶揄うのはダメです。お行儀悪いし」

 今更間接キスだのいうつもりはないし、ちょっとドSっぽい感じでとリクエストしたけども、急にそういうサービスはやめてほしい、心臓が持たないからと切々とテオドールにダメ出しした後、結局テオドールの分を少し貰って食べたが、緊張し過ぎて味が分からなかった。
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