生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

103.生贄姫は攻略戦の対策を練る。

「可愛いは鑑賞して愛でてください。お触り厳禁です」

 この衣装の可愛さは神レベルなので気持ちは分かりますけどね! と着衣の乱れを正したリーリエは、わざとらしく咳をして、そう言った。

「拾えっていうから拾ったのに怒られる意味が分からない」

 セクハラに耐えかねたリーリエに制服の仕様書を渡されたテオドールは、呆れたようにリーリエを見る。

「可愛い自覚があるのならもう少し人目を気にしてくれ」

「? 衣装が可愛いっていう意味ですが」

 テオドールは何を言っているのだろうかとリーリエは訝しげな視線を送る。

「別に服は服だろ。俺は着ている人間の話をしている」

 益々わからない、という顔のリーリエに、

「俺は可愛いは触って愛でる派なんで。リィが無自覚のままだと、気が気でないんだ。いい加減自覚してくれ」

 と優しく笑ってそう言った。

「私は、別に可愛くは」

「可愛い。少なくとも、俺にとっては世界で一番可愛い」

 きっぱりと言い切るテオドールに照れた様子はなく、

「ずっとそう言っているのに、俺の妻は本当に人の話を聞かない」

 楽しそうにそう口にするテオドールに、ああもうこの人はっと照れると同時にリーリエの中で迷いは消えた。
 テオドールなら、きっとどんな突拍子もない話も信じてくれる。
 リーリエは一度目を閉じて、呼吸を整えるとゆっくり翡翠色の目を見開く。

「今からお話しする事は、私自身にもきちんと説明できるものでもなければ、証明も検証もできるものではありません。ただ、テオドール様から私への信頼だけを担保に話す、突拍子もないお話、です」

 テオドールはリーリエを助け出した時に言われたあとでと言われた"突拍子もない話"か、と理解する。

「物語には、終焉に向けたおおよその道筋があります。今回もそう。それは様式美と言っても良いかもしれません。そして、私はそれを知っている」

 リーリエは微笑む。

「この物語のジャンルは、乙女ゲームなんかじゃなくて、謎解き冒険アクションRPGなんですよ」

 以前、ジャンル違いだとリーリエが言った時にも聞いた謎のセリフ。
 テオドールは静かに耳を傾ける。

「ヘレナート様が、主人公で異世界を渡る転移者だと言うのなら、私は異世界からの転生者なのです。私には、前世と呼ばれるものの記憶があるのです。そしてそこでは、この世界のお話しがゲームとして描かれていた」

 リーリエは自身の身に起きた不可解な出来事と、前世の記憶、ゲームの内容など包み隠さず全てテオドールに話した。
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