生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

104.生贄姫は夢を彷徨う。

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 繰り返し見続けた悪夢の中で、幾度となく破滅ルートを辿り続けた後の世界は、ただただ真っ白なだだっ広い空間で、寝ているのか、起きているのか、座っているのか、立っているのかさえ、分からなかった。
 そんな世界で、リーリエは自問自答を繰り返す。

 神様というものがいるのなら、どうして私が生まれ変わった先はリーリエだったのだろう? っと。

 前世というものを思い出した瞬間の、正確に言えばリーリエというキャラクターの行く末を思い出した時の『私』の気持ちは正直に言えば『詰んだ』その一言に尽きる。

 ゲームの中のリーリエのスペックなんて全然大したことなくて、暗殺者のスキル持ちだったせいで断罪されて、利用されて、敵国に人質として売られて死んでいく。
 そんな人生、一体誰得だよ!? と。

 そう、思っていた。
 けれど、案外生まれ変わった先の現実、つまり物語の外には、前世のゲームでは知り得なかった空白のエピソードが至るところに転がっていることに気がついた。

 そして、同時に願望が湧く。
 ヒロイン向きではないリーリエの人生は、初手からハードモードのスタートだったけれど、この世界に私の推し達がいるのなら、特に最推しのテオドールがいるのなら、その活躍を生で見てみたいっと。

『公爵令嬢なんて、重課金者どころか、廃課金者でもいけるくらいの財力とコネもあるしね』

 破滅ルートを回避してありふれた平穏な毎日を享受しながら、推しの活躍を鑑賞する。
 そんな人生の目標を掲げて生きてきた。
 自分でもよくやったと褒めてあげたいくらい沢山、たくさん、頑張った。
 憧れの人にも、会えたし。知らなかった感情も知ったし、それなりに幸せな人生だったんじゃないかしら? と。そこで、ふと気づく。

『あれ? 私、もう目標達成したんじゃないかしら?』

 この転生が前世の未練の消化なら、もう、いいのかな? 頑張らなくても。
 白髪いっぱいの絶世の淑女じゃなくても。
 もういいかな?
 もう痛い思いも、怖い夢を見続けるのも嫌なんだ。
 楽に、なってもいいのかな?

 そんな考えが頭を掠めたとき、すごく明るくて優しい光りが見えて、誘われるように私はそちらへ歩き出す。

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