生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

107.生贄姫は再戦する。

 リーリエの意識がゆっくりと浮上する。
 目が覚めて、一番に目についたのは、この場を制圧している最愛の推しの姿。
 彼の足元にいくつも転がる魔獣の残骸と、血まみれで片腕を押さえつけているヘレナート。

「俺が誰だか分かるか? リーリエ・アシュレイ」

 リーリエを庇うように背を向けたまま、テオドールがそう尋ねる。
 クスッと笑みを漏らしたリーリエは、

「アルカナが抜けております、旦那さま。私はあなたの妻ですよ?」

 そう言った。
 すっと視線を一巡させたリーリエは、状況を把握する。

「もうしばらく、そのまま抑えておいてください。先にヴァイオレットさんの方をなんとかしませんと」

 とテオドールにお願いした。
 足音もなくフィリクスと血まみれのヴィオレッタの側まで来たリーリエは、

「ごきげんよう、フィリクス殿下(ロクデナシ)。何ヒロインに怪我させているのですか。その綺麗なお顔踏みつけますよ?」

「……ルビがおかしいだろ、劣等種(リーリエ)

「お互い様です。鑑定眼は相変わらずのようなので、たまには仕事してください。なんとかして差し上げますから」

 とフィリクスにそう言ってヒールポーションと火傷治しを渡す。

「処置手伝ってください。あとは出血が酷いですね。殿下、ちょっと血液分けてください。輸血しますので」

 型一緒でしたよねと水魔法を発動させながら小刀でフィリクスの腕を斬りつけたリーリエは有無を言わさず血液を奪い取り、ヴィオレッタに輸血する。

「お前、いきなり……」

「自分の最愛のためにくらい、体張りなさいよ。ついでに止血して体液バランスも整えときました」

 感謝してくれていいんですよ? と淡々と話すリーリエは、

「とりあえずヴァイオレットさんとレオンハルト殿下の一致率鑑定してください。あと転移魔法の魔法陣鑑定もよろしくお願いします。全部済んだら彼女を私の側まで連れてきてくださいね」

 用件だけすまし、立ち上がる。

「目が覚めた途端に随分と人使いの荒い」

「無駄口叩かずキリキリ働いてください。私の方も時間がないので」

 リーリエは自分の指先を確かめるように擦り合わせ、まだいけそうだと安堵する。
 フィリクスからアレキサンドロスのカケラを回収し、リーリエはテオドールの方に急いで向かった。
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