生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

115.生贄姫は最愛の推しと再会する。

 あっという間に、叙爵式の日がやってきた。
 リーリエの本日の衣装は濃紺に美しい刺繍の施されたマーメードドレス。開いた胸元には大きめのブルーサファイアのネックレスがよく映えている。
 綺麗に編み込まれた蜂蜜色の髪は、華やかな髪飾りで上品にまとめられ、形のいい耳はネックレスに合わせたサファイアのイヤリングで飾られている。
 ハイヒールを履いて凛と立つその様は、大人の淑女の出立ちで、人目を引くほど美しい仕上がりだった。

「リィお嬢様、ダンス踊る気皆無ですね」

 そんなリーリエを見てリーリエの専属秘書であるラナはため息を漏らす。

「あら、このドレス似合わない? 結構気に入っているのだけど」

「いいえ、とてもお綺麗です。ですが、こんな晴れの日にもその指輪を付けていかれるのですか?」

 似合わないどころか、長身で細身、スタイルのいいリーリエを引き立たせるのにその格好は完璧と言っていいだろう。
 ただ一点、ガラス製のおもちゃの指輪を除けば、だが。

「爵位獲得のために奮闘した日々を共にしたのだから、コレもつけていくべきだと思わない?」

 そう言ってリーリエは青色に金色が散りばめられた誰かの瞳を連想させる指輪を撫でた。
 リーリエはアルカナから帰国後、一度たりともその指輪を外したことはない。公式行事に参加する時ですらつけたままだ。
 大人になった淑女が身につけるにはあまりに浮いている。その事が分からないはずがないのに、リーリエはその事実をスルーし続け、今もまるで何物にも勝る宝物であるかのように彼女の指を独占している。

「心配しないで。パートナーもいない訳あり物件の私に、ダンスを申し込む人なんていないわよ。式典後のレセプションは必須じゃないし」

 物言いたげな顔でリーリエを見るラナにくすっと笑ってリーリエはそう言う。
 今更人脈を拡げる必要もなく、この国すら出る気のリーリエは叙爵式が済めば最低限の挨拶だけ済ませてレセプションをサボる気だった。

「いないんじゃなくて、リィ様が近づけないのでしょう?」

 ラナは事実をそう訂正する。
 今日だってリーリエをエスコートしたいという申し出は、引く手数多であったのに、リーリエはそれらを全部断っていた。
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