生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

「そして厄介なことに面白いと思ったら進んで悪手も打ってくるギャンブラー。リスクも顧みずベットするクセに、最終的に欲しいものは手中に収めていく、そんなタイプなのですよ」

　リーリエはため息を吐きながら、カードとチェスの駒を封筒にしまい、封をして紋章を押す。

「これが私の答えです。王太子殿下にお渡しください。彼なら分かるはずですから」

　リーリエから封筒を預かったテオドールが怪訝そうな視線を寄越す。

「これが不参加の回答になるのか？」

「いえ、旦那さまの勇姿は拝見したいですし、＂テオドール殿下の配偶者＂としてなら喜んで出席させていただきますわ」

「断るんじゃなかったのか？」

　益々分からないという表情をするテオドールにリーリエはクスリと笑いかけ、ルイスからの封筒と手紙、カードをテオドールに渡す。

「予言します。明日王太子殿下は嬉々とした顔で旦那さまの執務室に押入り、私の回答を確認したあと喜んで笑い転げます。あの人はそういう人です。謎解きは明日の王太子殿下の出方が分かってからにいたしましょう」

　この話はおしまいですと切り上げたリーリエは残ったナイトとポーンが無くなったチェスセットを仕舞う。
　ルイスがリーリエをよく知るように、リーリエもルイスの手の内を分かっているかのように話す。
　何故だかその事実がテオドールをざわつかせ、苛立ちを覚える。

「随分と仲がいいんだな。愛称で呼び合う程の関係のようだし」

「旦那さま？」

　苛立ったような声にリーリエは驚き、翡翠色の瞳は大きく見開く。

「いっそのこと、ルイスに嫁いだ方が良かったのではないか？」

　言ってしまった言葉にテオドール自身が驚き、息を呑む。
　後悔しても八つ当たりで出た言葉は消えてなくならない。
　こういう時にどうすればいいのか、何に苛立っているのかも分からず、テオドールは視線を晒した。

「旦那さま、少し夜風にあたりませんか？　今日は星がきれいですから」

　そんなテオドールにリーリエは優しく声をかけ、テオドールの手を取る。

「お散歩に出たい気分なのですが、今日は少々疲れましたので、エスコートをお願いしてもよろしいでしょうか？」

　リーリエにそう促され、テオドールはぎこちなく了承し、2人は執務室を後にした。