生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「内容の想像はついているのか?」

 リーリエは頷き、口にすることを躊躇う。

「まぁ、想像はつきますが、不確かなので話は本人に聞きましょう」

 そう言ってリーリエは明言を避けた。

「私の返事ですが、白紙のカードとナイトとポーンこれで何が読み取れますか?」

「騎士、歩兵、白紙、ルイスは"用があるならお前が来い"と解釈していたが」

「騎士は旦那さま、ポーンは歩兵ですが、人質でもあります。白紙は撤回。つまり私達の関係解消、全面戦争の宣戦布告です」

「正気か?」

 驚いたように聞き返すテオドールにリーリエは肩をすくめる。

「いいえ、ただの言葉遊びですよ。"そうなったら困るのはあなたでしょう?"と。つまり脅しと協力拒否です」

 ふるふると首を横にふり、リーリエは即座に否定する。

「後はどこまで解釈するか、ですが、今回私が意図したのは、"駒が揃わないと遊べないでしょう?""私を舞台にあげたいなら会いに来て""話くらいなら聞いてあげる""ただし、旦那さまと一緒に"。王太子殿下なら全部お見通しだと思いますよ。ついでに話を聞く対価の請求もしました」

「対価?」

「夜会以降熱心にご招待してくださる方たちから、ちょっとした情報収集をいたしました。結果、旦那さまを軽んじてちょっかいをかけようとする動きが見られましたので、今のうちに潰しておこうかと。なので、旦那さまの後ろ盾として王太子殿下の御威光をお借りすることにしました」

「……ステラリア」

「すでに王太子殿下からヒントが出てましたか。愛されてますね、旦那さま。ステラリア様は流石社交界の花形。沢山の噂話をお手紙で聞かせてくださいましたよ」

 沢山の招待状の中に混ざってステラリアからの礼状が届いて以降、リーリエはステラリアとの手紙のやり取りを行い、情報源としていた。
 今はまだ若く可憐な令嬢だが、育てればかなり有能になるだろうとリーリエは微笑む。

「わざわざ屋敷まで、全権代理者である王太子殿下が来られる。それはつまり、それだけ旦那さまを重用していると周りに示す事になります」

 権力による牽制。
 全権代理者が蔑ろにしていない弟殿下を軽んじることは自殺行為に等しい。

「あとは最近話題の生贄姫の所有者は誰か、という家臣へのアピールですね。使えると判断された以上、カナンの技術と知識を個人で所有しているのは大きなアドバンテージになります。一目で分かりやすくするには、ドレスのコーディネートと宝飾品です」

 テオドールだとすぐに分かるカラーコーディネートから想像するのは独占、寵愛、牽制。
自分のモノに触れるなと、取りつく島もない拒否の姿勢。
 その後ろには全権代理者の後ろ盾があれば尚のこと取り入ることが難しくなる。

「上層部の目撃者と社交界のお嬢さまがたのお茶会なんかで噂として流しておけば、あとは勝手に想像して察してくれますよ。財力、名声、権力による後ろ盾。それがあれば随分静かになりますね」

 後ろ盾とそのための情報操作の機会。
 それが今回リーリエが要求した対価だった。
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