生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「結局、ジャンル違いだの叫んでいた冒頭の話は何だったんだ?」

 代わりにまだ話を聞いていなかったなと話題を振る。

『冒頭の"と"に繋がる内容が不明なんだが』

 リーリエはそういえば執務室でそんな話をしていたなと思い出す。
 が、推しからの差し入れカフェオレを落としたショックが大き過ぎて、今はジャンル違いなんて正直どうでもいい。

「……"と"の部分がそんなに気になりますか?」

 ニコッと淑女らしい微笑みを浮かべテオドールを見返したリーリエの目は全く笑っていなかった。

「そんな些細な事のために、私のカフェオレをダメにしてくださったのですか。そうですか」

 この世界がいくらかつての自分が周回プレイしていた謎解き冒険アクションRPGの世界に酷似していようが。
 本筋に関係あるメインキャラのシャロンやテオドール、ゼノ、ルイスといった高火力、超スキル持ちの面々たちがリーリエの推しで、リーリエ自身はいいところのお生まれの聖女の姉というだけの唯のモブだろうが。
 本筋に関係ないモブなら何やってもいいよね!? と解釈し、結果好き勝手に暗躍し、戦争回避へとストーリーを変え、破滅回避のために10年以上フラグを降り続けていようが。
 両国間で戦争が起きなかったら、主人公が時空を渡って転移してきた時にコチラのキャラと絡みつつ何やかんやと謎解きするストーリーがまるっと成立しなくなることになろうが。
 もうぶっちゃけ、リーリエにはどうでもいい。

 ザシュ、ガダンッ、バギッ。

 テオドールの顔面を風が掠め、高速音ののち破壊音とともにテオドールの顔のそば付近の柱がやや崩れ落ちる。
 視線を動かせば直ぐそばにリーリエの脚と柱にめり込む彼女のヒールが目に止まる。

「そんなに気になるなら、教えて差し上げてます」

 静かに、怒気を孕んだ声が夜闇に響く。
 どれだけかつて好きだったゲームの世界に似ていたとしても。
 今、リーリエが生きているこの世界は、紛れもなく現実だ。
 もちろん、カフェオレがダメになった事も。
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