生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
『具体的に、ルイスの側近として認められる条件は?』

 テオドールの答えは即決だった。
 その後ルイスがテオドールに提示した条件も、テオドールは異を唱えることなく受け入れた。
 疑わないのか、という問いかけに対して、

『この件に関して、ルイスが嘘をつくメリットが見当たらない。俺の中には、もう手放す選択肢がないんだ。ちょうど対リーリエ用に翻訳機が欲しかったしな』

 と迷いなく答えた。
 リーリエが来てから、テオドールは随分と穏やかに笑うようになったとルイスは思う。
 戦場にいるときは、死神と形容される呼び名にふさわしい殺気を放ち、殺伐とした空気しか纏っていなかったというのに。
 リーリエが、テオドールを変えたのだろう。かつての自分が彼女に出会って変わったように。
 だが、そんな彼女はいつだってほんの一握りの”幸せ”さえ望まない。この瞬間でさえ、そうだ。
 あんなにも幸せそうな笑顔を振りまき”最愛”と言葉にするその口で、ためらいなく”別れ”を選ぶ。
 ゲーム終了後にダウトをコールしたルイスに、

『もう、めくるカードは無いのですよ、ルゥ』

 そう言って浮かべた笑みの中に僅かに混ざった愛惜。
 ルイスは瞬きをし、深く息を吐き出した。

「リリ、さっきのゲームの申し出だけど。リリの掛け金は保留で」

 リーリエは眉根を寄せて、真意を探るようにルイスに視線をよこす。

「テオドールは俺がもらう」

 察したように、ふっと相好を崩したリーリエは、

「旦那さまが決めたことに、私は異論ございません」

 静かにそう告げた。

「俺は”未来の可能性”にベットする」

 3年後、リーリエの意思が変わることを祈って。
 面白そうに笑うルイスに、リーリエは淑女の仮面を向ける。

「私の意思は揺らぎません。が、賭ける分にはどうぞご随意に」
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