Miseria ~幸せな悲劇~
二人は部屋を出て、暗い廊下を進んだ。床は抜け落ちそうなほど古い造りだ。家の所々に日本人形が飾られている。
祐希は祐人や叔母、叔父が集まる居間の戸を開けた。叔母と叔父は居間で大きめの円卓を囲ってテレビを見ていた。
「祐人……」
祐人は制服のまま端で小難しそうな本を読んでいた。祐希はそんな祐人を恋人を見るような目で見つめた。
「どうしたの…?」
祐人は本から顔をあげて祐希の方を見ながら首を傾げた。
「お姉ちゃん、ちょっと出掛けてくるから……」
祐希はそう言って後ろにいたメイの手を握った。
「今から? もう遅いよ?」
祐人は不思議そうに言った。時刻は夜の九時をまわっていた。健全な高校生ならよほどのことがない限り出歩かない時間だ。
「大丈夫、すぐ戻るよ……」
祐希は祐人にわざとらしく微笑んだ。
「うん…」
祐人は少し不審そうに頷いた。
「何かあったら携帯に連絡して。それと、さっき言ったことは忘れないでね」
「分かってるよ」
祐希は思わず祐人に駆け寄ろうとしたが、メイは祐希の手を握って制止した。
「行こ、祐希」
メイは祐希に強い眼差しをぶつけた。ここで祐人に駆け寄ったら、また、祐希が取り乱してしまうと思ったからだ。
「うん。じゃあ、行ってくるね」
祐希は祐人に手をふりながら、それからは一切、振り返らずにメイの後に続いた。