Miseria ~幸せな悲劇~

「姉ちゃん?」


玄関は叔母が用心のために鍵を閉めていた。が、そのため祐希が帰って来ても中に入れないでいるのかもしれない。


そう思った祐人は部屋を出て玄関に向かった。


音はなおも廊下に鳴り響く。かなりの勢いで戸を叩いているようだ。


「おじさん? おばさん?」


祐人は二人に呼び掛けてみたが返事はない。どうやら二人はもう寝てしまっているようだ。


「祐人? いるの?」


「姉ちゃん…!」


玄関から祐人を呼ぶ祐希の声がした。


祐人は急いで玄関の戸の前まで駆け寄った。


「開けて、祐人」


祐希の声は淡々とした口調で祐人に語りかける。


「うん」


祐人は小さく頷いて戸に手をかけるが、


「……………」


「どうしたの? 祐人、はやく開けて?」


戸の向こうには見慣れた姉、祐希の陰が見える。


しかし、祐人は何かに違和感を覚え、戸を開けるのをためらった。


「どうしたの? 祐人? 寒いよ。はやく、はやく開けて…」


「えっと……」


祐希の陰はなおも祐人に語りかけ続けた。


この人、本当に姉ちゃんなのかな……?


祐人はそう思いながら顔をしかめ黙ってうつむいた。
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