Miseria ~幸せな悲劇~
日の沈んだ病室には暗闇が訪れた。喰イ喰イの青い瞳が私をジット見つめる。
『ある、恋人に執着された、あなたとは一切面識のない女性の不幸よ。彼女は、恋人に逆恨みされた挙げ句に、二人の友人を彼に殺されたの。いずれも彼女が好きだった電車に突き落とされる形でね。前回は、それを私がなかったことにしたの……』
喰イ喰イは病室に置かれていた林檎を弄びながら言った。
『その不幸を背負うと、私はどうなるの?』
私は喰イ喰イの青い瞳を見つめながら言った。
『もちろん、あなたは複数の大切な友人を失うことになる…』
喰イ喰イは手にしていた林檎を舌で舐めた。
『それって、せっかく友達ができても、私と関わったら死ぬってこと?』
私は震える声で喰イ喰イに言った。
『いいえ。あなたが不幸を背負うのは、あなた自身の不幸が消えた後になるわ。だからそれは、あなたの否定した過去が、全て終わった時よ…』
そう言って喰イ喰イは林檎を一かじりした。
『じゃあ、私が、今の私として過ごした17年と同じ時間を新しい私として生きるまでは、不幸を背負うことはないのね…?』
私は薄笑いを浮かべた。
私の頭にある考えが過ったからだ。
『ええ。そういうことになるわね。それにその不幸の期間も、前の者と同じで永遠に続く訳ではないわ…殺人を行う者も一人よ……』
喰イ喰イは食べかけの林檎をベッドの上に落とした。
『ほんとに、それだけで………』
私は林檎を見つめながら思わずそう口ずさんだ。