お見合い結婚狂騒曲
「温かいな、君の手は……心配しなくても大丈夫だ」

彼のもう片方の手が私の頬に触れる。

「涙まで温かい」

いつの間に泣いていたのだろう……溢れる涙を今度は彼の唇が拭う。

「伯父夫婦には子供ができなかった。だから尚更、僕を我が子のように可愛がってくれた」

「でもね」と葛城圭介は笑う。

「桜子さんてあんなだろう。仕事も持っているしね。だから、誰よりも僕の側で僕を慈しんでくれたのが祖母だったという訳」

更に声を上げ笑う。

「僕がグランドマザー・コンプレックスと言われているのも知っている。僕は決して不幸ではなかった」

そう言って、一転して硬い表情になる。

「しかし、さっき父に会って分かったことがある。実父が僕を憎んだように、僕も父を憎んでいたが……」

彼の瞳が私の瞳を覗き込む。

「君と付き合うようになり、君を好きだと自覚したら、父の気持ちが少し分かった。もし、今、君を失ったら、僕も父のように気が変になるだろう」

その眼差しがあまりにも真剣で、痛いほど胸が締め付けられる。
< 127 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop