明け方の眠り姫
 好きで始めた仕事なのに、いつの間にか時間に追われて余裕がなくなってたりとか、片づける間もなく散らかっていく部屋とか、……和史の結婚とか。私を少しずつ追い詰めていた様々なものが頭に浮かんで来て、涙が止まらなくなった。


「……もうやだ。私、要くんに格好悪いとこばっかり見られてる」

 色んなものを溜め込んで、知らないうちに私はこんなにも弱っていたんだ。どんなに拭っても涙は止まらなくて、恥ずかしくなった私は、顔を隠すようにそのまま机に突っ伏した。

「格好悪くなんてないよ。夏希さんは格好いい。いつも一人で頑張ってるじゃん」

 要くんには何も話していないのに、彼はまるで私の心の中を見透かしたような言葉をくれる。要くんは私の頭に手を乗せると、何度も何度も優しく撫でてくれた。

「初めてあなたに会ったときから、僕はずっとあなたに憧れてるんだ」

 ちゃんと私のことを見ていて、認めてくれる人がいる。……そのことが、ただただ嬉しかった。


 まるで子供の頃に戻ったようだった。母は毎晩私が寝付くまで、ずっと側にいてくれた。その記憶がふいに蘇った。

 私に触れる要くんの体温が、彼が作ってくれたポトフみたいにゆっくりと身体に沁み込んでいく。

 ふわりふわりと頭を撫でる彼の手が心地良くて、私はいつの間にか眠りに落ちていた。

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