君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
翌朝、目覚めたわたしは

自分の姿にギョッとした!

制服のまま、義足も付けたまま…

見下ろした制服は、あまりに

ひどい皺くちゃ加減で、思わず

大きな溜め息が出る。

しかも…

姿見に映るわたしは、

どこからどう見ても…

泣きました!と

宣言するみたいに真っ赤で…

少し熱を持った瞼に触れながら、

日向くんに言われた事を

思い出していた。

今日は体育祭なのに…

ちょっとだけ、行きたくないって

思っちゃった…

っていうか…

なんだか足がヒリヒリする。

ベットに座って、足を見ると

一ヶ所だけ擦れている。

あぁ…昨日、日向くんを置いて

逃げた時に擦りむいたのかも。

全力疾走したもんね…

なにやってもダメだなぁ、わたし。

朝から何回溜め息ついてるのやら。

念入りに足のケアをして

ジャージに着替え、

学校へと向かった。

まだ誰もいない教室は

とても静かで、波立つ心を

落ち着かせてくれる…

「はぁー…」

「デカイ溜め息だな、なんかあった?」

ふいに背後から声を掛けられて

心臓がバクバクした。

だって、振り向かなくても

分かっちゃうんだもん…

そっと振り返ると

やっぱりそこにいたのは

桐生くんだった。

昨日日向くんから言われた言葉を

思い出して、わたしは

窓に視線を戻し

返事をした。

「別に…なんでもないよ」

『翼はそれを受けとめたい…

苦しみや辛さを抱えてやりたいって

思ってるんだよ!

翼は流羽ちゃんを普通じゃないなんて

思ってないよ!

1人の人間…1人の女の子として

大切に想ってるんだ』

わたしがみんなと同じ

普通の女の子だったら、きっと…

あの言葉は

飛び上がるほど嬉しい言葉。

でも、実際にはそうじゃないし

なりたくてもなれないんだよ…

そんな簡単な事じゃないんだよ。

「やっぱりなんかあったんだろ?」

頭にポンと乗せられた温かい手…

この手を取れたら

どんなに幸せだろう。

でも、わたしはこの手を

取ってはいけない。

パシッ!

「わたしに触らないでくれるかな」

わたしは桐生くんの手を払いのけ、

そのまま教室を出た。

払いのけた時、一瞬見えたのは

驚いた顔をした桐生くん。

本当はこんな事を

したいわけじゃない…

でも、こうでもしないと

桐生くんは…

わたしは1人になりたくて

あてもなく歩き続けて…

気が付いたら、桐生くんと初めて

出会った体育館裏に

来てしまっていた。

あれだけ拒絶しておきながら

こんな所に来て…

わたしは一体何がしたいの?

言ってる事とやってる事が

伴ってないよ、わたし。

あの日、桐生くんと

出会わなければ

こんな気持ちにならなくて

すんだ?

桐生くんを好きにならなければ…

ううん…きっと

どんな形で出会ったって

わたしは、桐生くんを好きに

なったって、思う。

「…っふぅ…っく…うぅ…」

溢れる涙を止めることが出来なくて

始業のチャイムが鳴るまで

わたしは泣き続けた。

トイレで顔を洗い、

鏡に映る自分は

泣いたのがバレバレの

真っ赤な目。

こんな顔で教室に戻ったら

きっと璃子や聖奈ちゃんが

心配するよね。

わたしは教室とは反対方向へと

歩き出し職員室へやってきた。

ガラガラッ…

一条先生いるかな?

キョロキョロしていると、

ちょうど、席を立つ

先生の姿が見えた。

職員室の扉の前で立ち尽くす

目を真っ赤にするわたしを見た

先生は、すぐに駆け寄ってきて

「どうした、その目。

真っ赤になってるじゃねぇか!

何かあったのか?」

「すみません…足の具合が悪くて

立ってるのも辛いんです。

少し保健室で休ませて貰っても

いいでしょうか?

体育祭なのに、すみません…」

事情を知っている先生は

何も言わず承諾してくれた。

「足の具合が良くなったら、

顔出せよ?

みんなには、俺から伝えておくから」

コクリと頷いて、

わたしは保健室へ向かい

ベットの上で開会宣言を聞いていた…









< 51 / 102 >

この作品をシェア

pagetop