君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
一歩足を踏み入れると、

黒と白で統一された、

男の子っぽい部屋。

シンプルなローテーブルに

黒のラグ、ベット。

壁際には、ビッシリと本が

綺麗に整理整頓されている。

男の子の部屋って、もっと

散らかってるイメージだった…

部屋のいたるところに、

バスケ関連の物が、置いてある。

本当に、バスケが好きなんだって

伝わってくる。

「桐生くんらしい、部屋だな…」

「そうか?」

不意に後ろから、声を

かけられて、わたしの心臓は

ドクドクとうるさい。

「びっくりした…

桐生くんって、いつも後ろから

急に声掛けてくるから、

驚いちゃうよ!」

「そうか?」

「そうです!!」

わたしが、プーッと頬を

膨らませて怒ると、

悪かったと言って、笑っている。

本当に悪いって思ってるのかな?

楽しんでるようにしか

見えないよ。

「そこ、座れよ。

飲みもん、これしかなかった」

オレンジジュースを

テーブルに置いて、

ラグに腰を下ろした。

わたしも、それにならって

桐生くんの向かい側に、

腰を下ろした。

「男の子の部屋って、もっと

散らかってると思ったけど、

桐生くんは、綺麗にしてて

すごいね!」

「お袋がうるさいから、

仕方なくだ。

怒らせると、マジおっかねーから」

ふふふ!

桐生くんにも、怖いと思うこと

あるんだ。

なんか、想像できないな。

「気になってたんだけどね…

ご家族の方は、その…

わたしのこと、全部知ってるの?」

晴人くんには、思いがけず

話しちゃったけど、

ご両親は知ってるのかな?

知らないとしたら、きっと

反対されるんじゃ…

目を伏せた、わたしに

優しい声色で話す桐生くん。

「全部知ってる。

心配しなくても、親父もお袋も

春瀬を気に入ってる」

「えっ…、全部って…

わたしの生い立ちや、怪我の

ことも?」

わたしには、実質、親がいないから

分からないけど、

自分の子供と一緒にいる子が、

こんなだったら絶対、反対する

ものだと思ってた…

「晴人の事があったときにな。

春瀬に許可なく、話したのは

悪いと思ったけど…

俺にとって、そこはあんま

重要じゃねーから。

誰だって、色んなもんを抱えて

生きてる。

ただ、人より多く辛い経験したって

だけで、春瀬は春瀬だからな」

それに…と言って、

携帯を取り出した、桐生くんは

画面を見つめながら、

「これ見て、可愛いだなんだって

親父もお袋も、ギャーギャー

うるさかったくらいだ」

「何、見せたの?」

ほら、とわたしに見せた画面には

桐生くんの膝の上に座る

わたしの姿。

っ!!

これ見せたの!?

こんな恥ずかしい写真!!

わたしは咄嗟に、桐生くんの手から

携帯を取り上げた。

すかさず伸びてきた手から、

逃れて、わたしは消去しようと

桐生くんに背を向けた…

その瞬間…

フワッと温かいものに包まれた

わたしは、金縛りにあったみたいに

動けなくなった。

背中越しに伝わる、少し早い

リズムを刻む鼓動…

身体の前に回された、温かい腕。

肩に乗せられた、少しの重み。

わたしの心臓は、壊れそうなほど

音を立てて…

ドク…ドク…ドク…

「すげぇ、心臓の音…

緊張してんのか?」

抱きしめる腕に、ギュッと

力を込めて、尋ねてくる

桐生くんが、肩越しに

わたしを見つめている。

その腕を、キュッと握って

頷いた。

こんなの、緊張するに決まってる!

間近にある、桐生くんの顔を

振り返ることが出来ない。

「春瀬…こっち向いて」

優しい声色で、語りかけるように

わたしの名前を呼ぶ。

わたしは、ふるふると首を振った。

「流羽」

っ!!

今までずっと苗字で呼んでたのに、

今、下の名前で呼ぶなんて…

嬉しいけど、胸がギュッとなって

痛い。

さっきよりも強く、

腕を強く掴んだわたし。

フッと桐生くんの

腕の力が緩んで…

次の瞬間…

下を向いていた、わたしの顔に

そっと手を掛けて、

桐生くんの方に向けさせられた

わたしの唇に、桐生くんの唇が

優しく重なった。

「…っん…ん」

自然に目を閉じて、わたしは

温かくて柔らかい、桐生くんの

熱に身を委ねた。

どれだけ、そうしていたかは

分からないけど、

触れ合ったところが、

すごく熱い…

フッと離れた桐生くんの

唇に、少し寂しさを感じた。

至近距離で見つめる、

桐生くんの瞳は、熱を帯びたように

潤んでいて、

その瞳の中には、わたしがいて

幸せだと思った。





















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