記憶を失くした少女【完】
注文通りに美容師さんは私の前髪を切っていく。
「お客さまは、社会人ではないんですよね?」
「あ、はい。ちょっと今日は学校休んでて………」
「雰囲気が大人っぽいから社会人かな~とは思ったんだけど、顔が幼かったから学生だと思ったのよ(笑)」
メイクしてないからかな?
面倒くさかったから、しないで来ちゃったんだよね。
「マツエクとかしてます?」
「たぶんしてないと思います。普段は付けまつ毛着けてたみたいなんで」
「他人事のようですね(笑)普段はつけてるってことは、今日はしてないんですか?」
「はい。お恥ずかしながら今はノーメイクです」
そういうと、何故かスゴく驚かれた。
「ノーメイクなの!?肌透き通ってるし、まつ毛長いし、メイクしてるのかと思った」
メイクしてないのに、してるような顔もどうなのかな………?
「そっちの方が似合ってるよ、絶対!メイクしてるときはしらないけど、今してる髪色的にもそっちがピッタリ♪」
凌馬さんといい、この美容師さんといい、みんな同じこと言うよね。
「清楚系目指してるの?」
「いや、何となくです」
前の金髪が嫌すぎて…………ね。
「あ、カジュアルっぽい服が欲しいんですけど、いいお店知ってますか?」
流石に少しぐらいは落ち着いた服を買っておかないと。
外に出るとき困る。
「あ~、知ってるよ♪私がいつも買ってる服屋ね、清楚系と可愛い系を合わせ持った感じの服の系統なんだけど、シンプルでスゴく良いの!」
肴浜(さかなはま)商店街の『Belize』というお店らしい。
「染め終わりましたよ」
2時間半後。落ち着いた黒色に近い色に染め上がった。
黒すぎず、明る過ぎず。
先程までの印象もガラリと変わる。
「髪巻いておきましょうか?」
「じゃあ、お願いします」
軽くフワッと髪を巻いてもらい、服を買いに行くならと、軽くメイクもしてくれた。
「こんな事までしてもらって申し訳ないです………」
そんな私に美容師さんな笑いながら「良いのよ♪その代わりまた来てね!」と言ってくれた。