記憶を失くした少女【完】
そんな感情のまま泣いていると、急に男子生徒が「ヒッ………!!」と恐怖に満ちたような声を出したかと思うと、「い……や…俺らはなんにも………!」と言ってどこかへ行ってしまった。
取りあえず、どこかへ行ってくれて助かったと思いつつ、泣いた目をゴシッと拭く。
そして、視点を前に向けるとそこには蘇芳遥輝が立っていて………、
ジッと私を見ていた。
そもそも何でこんなとこにいるのか不思議だし、ここに用事があったとは思えない。けど、私に用事があったとも思えない。
じゃあ、何でここに来たの?
疑問でしかない。
っていうか………………この人何かと怯えられるよね。
それって髪が赤いから?
まぁ、目つきは悪い感じだけど顔自体はそこまで怖くないのに。
どちらかというと、整ってる方だしね?
私もそうだけど向こうも見つめ合ったまま口を開かない。
これって、普通に帰っていいやつかな?
戸惑いつつも、軽く会釈をしてその場を去ろうと歩き出す。
横をすれ違うとき、その人はやっと口を開いた。
「………………なぁ。お前って2年B組の山田綺羅だよな?」
歩く足がピタッと止まる。
_____………バレた。
心臓の音が早くなるのを感じる。
「……………………………」
何か言わないと不自然なのに、何も言葉が出て来ない。
クラスまで分かってるってことは、あの後誰かに聞いたんだよね?
ということは、前の私も知ってるはず。
「おいって」
返事がかえってこないことに若干イラつき気味。
「……………………そうだけど?」
恐る恐る開いた口は、とても小さかった。