本日、結婚いたしましたが、偽装です。
それもそうだ。
クリスマス前の繁忙期で、年末の棚卸しを前に会社中が忙殺しているのだから。
申し訳なさそうに断られると依頼する俺も申し訳ない気持ちになって、強く押し付けることなどできない。
何人目かの社員に断られて、こめかみを押さえながら俺がやるしかないのかと思った時だった。
「あの、課長っ」
背後から、そう俺を呼ぶ佐藤の声がした。
俺はこめかみを押さえたまま振り向いて、深い吐息をつく。
「本当に、申し訳ありません。曖昧に中途半端に仕事をして、こんなに忙しい時なのに失敗して、足ばかり引っ張って。でも、今度こそ他ごととか考えないで、しっかりと集中して、作成します。だから、お願いします。その仕事、もう一度やらせて下さい。お願いします……!」
佐藤が真剣な声音で叫ぶように言ってから、深く頭を下げる。
俺に叱責されても諦めない佐藤に圧倒されながらも、仕事を頼んでもいいのかと躊躇う。
佐藤に期待していないわけでも、失望したわけでもなかった。
ここまで『もう一度やらせて下さい』と頼む佐藤に、俺は尊敬に似た気持ちを抱いた。
佐藤が、とても真剣にやっているのは知っている。
したくてミスばかり起こしているわけでもないのも、分かっている。
……どうすればいいのだろうか。
真剣だけどミスが多い部下に対して、どのような対応をすればいいのかという悩みは『課長』になって数年経っても大きな壁だった。
この場合上司として、徹底として他の社員に依頼し続けるのか、ミスをするかもしれなくてすぐ終わらなくても佐藤にもう一度頼むのか。
俺は合理的に考えてから、前出の方を取った。
わずかな良心の呵責をしながら、深い吐息をつく。
「頭上げろ」
佐藤は、頭を上げなかった。
どんなにミスをして叱責されても諦めず、頭を下げて頼む社員は珍しかった。
全員ではないが、中にはたった一度ミスを指摘しただけで不貞腐れてやっていた仕事を途中投げ出す社員もいたから……。
「佐藤。いいから、上げろよ」
そう言うと、佐藤は恐る恐ると頭を上げた。
その表情は、真剣そのものだった。