本日、結婚いたしましたが、偽装です。


「でもな、お前の小さな失敗一つで、大きな損害が出る場合もあるんだぞ。この納品書一つだってそうだ。たった紙切れ一枚のやりとりだとしても、多額の金が動くんだ。お前は、向こうにこちらが本来請求するはずの正規の金額よりも多く請求するところだったんだ。そんなことをしてみろ。ただの間違いでしたじゃすまないんだぞ!ウチの会社の信用は失い、それどころかもっと取り返しがつかないことになるかもしれないんだ。普段から言っているだろう、俺だって見過ごすかもしれないから、自分達でも良く目を通せ、と」


俺は、まくし立てるようにきつい口調で言った。


佐藤が真剣にやっていても、多額のお金が動く納品書一枚でも社運がかかっていて、金額を間違えた佐藤のミス一つで大きな損害が出る可能性もある。


佐藤にも、もしかしたら何らかの処分が下されたりするかもしれない。


資料はともかくとして、納品書はよく目を通せば分かるミスだった。


「ちゃんと、目は通したつもりです」


俯き加減の佐藤から、小さな声が聞こえた。


佐藤は目を通したつもりでも、間違っているものは間違っているんだ。


俺は怒りとはまた違う感情に包まれた。


「つもりじゃ、ダメなんだ。つもりとか、したはずとか、曖昧じゃダメなんだよ、仕事は!ミス一つ無く、完璧に仕上げる。お金をもらっている以上、それが当たり前なんだ。もういい、納品書も資料も、他に手が空いている奴探して頼む」


俺はそう冷たく言うと佐藤から書類を奪った。

それから忙しなくタイピングをする社員一人一人を見て、誰か手が空いていないか辺りを見回して探す。


俺がやっても良かったのだが他の業務が立て込んでいて、手が回らなかった。


電話応対を終えた一人の男性社員を見つけた。


「沢村、悪いが昼に送る納品書と次のプレゼンの資料、頼めるか?必要なデータはそっちのパソに送るから」


すると、彼は少し眉根を寄せて見るからに困ったような顔をした。


「課長、すみません。その、今、A建設さんから連絡があって、今月納品したインパクトドライバに不具合があったらしくてこれから製造担当の者と説明に行かなきゃいけないくて……」


おずおずと言って、申し訳なさそうに断る。


工具という商品を売り込む営業部は、工具に何かあったらすぐに取引先に駆け付けるのも仕事のうちだった。


「分かった。不具合はどういう不具合なのかA建設さんから聞いたら俺に教えてくれ」


「あ、分かりました」


「よろしくな」


「すみません、課長」


彼は俺が頼もうとした仕事のことを気にしているのか、俺の手に握られた書類を見た。


「いや、気にするな」


俺は沢村にそう言ってから数人の社員に依頼したが、どの社員も自分の仕事で手一杯で断った。


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