本日、結婚いたしましたが、偽装です。
「また、間違っている。さっきを指摘した箇所をどうして何度も間違えるんだ。最近の佐藤はいつもと違うな。最近一日中ずっと上の空みたいな時もあるし、ぼうぜんとしている時もあるし、仕事に身が入ってないみたいだな。そういう状態じゃ、仕事を頼もうにも頼めないし、周りにも迷惑かかる。何があったか知らないが、会社に個人的な事情を持ち込むな。ぼけっとすんなら帰ってからにしろ」
佐藤の背後に立ち、少し背を屈めて、デスクに片手をつきながら、ケアレスミスばかりの画面を見て、深く溜息をつく。
俺の胸の下辺りにある佐藤の顔を見ると、深く眉根を寄せて、更に沈んだような暗い表情をしている。
ここ一週間、佐藤はずっと、こんな表情ばかりしている。
一週間の間か、それかその前になのか、会社かそれともプライベートでなのか、佐藤に何かあったのは確かだった。
何があったのかとても気になるが、先ずはミスばかり起こしてその度につまづいて、捗らず溜まっていっただけの膨大な量の仕事を片付けさせるのが先決だと思った俺は、声を低くしてそう言った。
会社で何かあったのなら、部下に話を聞くのが上司である俺の仕事の一つであり、佐藤が会社や仕事に対して悩みを抱えているのなら、相談を受けなければならない。
その相談は、強制ではなく任意なのだが。
だからこそ、何があったのかとても気になっていても、無理に聞き出すことも出来なかった。