本日、結婚いたしましたが、偽装です。
数分おきに佐藤の仕事の様子を見に行った。
ケアレスミスばかりの画面のチェックという名目で、実はただ、普段は近くにいることすら難しい佐藤の近くにいたいからという俺の下心に気づいていない佐藤は、俺がミスの指摘をするたび暗い表情をしていた。
気持ちをひた隠して、いつもと変わらない態度と言葉で添削をし、自分のデスクに戻る。
本来なら部長がやるべきの会社の上に提出する報告書を作成をし、画面を見つめていると不意に視線を感じて、斜め前の席に視線を移した。
っ!
不意に、真っ直ぐと互いの視線が、空中で絡み合う。
俺は、その瞬間、一瞬だけ、驚いてしまった。
佐藤が……、いつもは5秒も俺のことを視界に入れないあの佐藤が。
……俺のことを、見ている……!
いつも自分の姿を瞳に移して欲しいと思っている相手の瞳を、自分に真っ直ぐにと感じて歓喜する。
だが、仕事中の俺は、すぐに平常心に戻り、佐藤と5秒以上視線が絡んでいる嬉しさで緩んでしまいそうになる唇を引き結んで、冷静な態度を貫いた。
「佐藤、どうした」
低い声で、努めて素っ気なく佐藤に訊く。
きっと、俺に仕事のことで何か聞きたいことがあるのだろう。
俺はそう思った。
だが、佐藤は、
「っ、な、なんでもありません」
と言って、慌てたように俺から、さっと目を逸らしてしまった。
なんでもないのに、では何故俺のことを見ていたのか気になったが、俺は、さっとまるで気まずそうに、いつものように、目を逸らされたことに一番気になり、そして、沈んでいた。
……そうか、やっぱり、そんなに、5秒以上も目に入れたくないほど、俺のことが苦手なのか。
いや、苦手というより、嫌われている?
『苦手』より、『嫌われている』の方が、佐藤の態度からして納得がいって、それが更に心の傷に塩を塗った。
相手に嫌われているということが、こんなに胸が痛くて、悲しくなるなんて、知らなかった。
それから、相手にただ、見てもらえただけで大袈裟に反応するとは、初恋を覚えたての思春期の中学生みたいだ。
幾度かそれなりに恋愛経験もしてきた三十路の男が、こんなことでいちいちドキドキして、沈んだりするなんて……。