本日、結婚いたしましたが、偽装です。
報告書を仕上げた頃は、9時近くになっていた。
佐藤もそろそろ終わる頃だろう。
もし終わっていなくても、近くでずっと存分に佐藤を見ていたくてもあまり遅くまで仕事をさせるのは上司として失格なので、仕事を途中で切り上げさせ、帰宅させなければならない。
俺は、パソコンのバックアップを取ってから電源を落とし、席を立った。
佐藤の方を見るが、真剣な表情でパソコンと対面していて、立ち上がった俺に全く気付いていない様子だった。
……そういや、喉乾いたな。
口の中の潤いがなく、喉が張り付くような感覚を感じた。
俺も、それから佐藤も、終業時間から今まで何も飲まずに仕事をしていた事に気付いた。
俺は、あるアイデアが閃き、そっと佐藤に気付かれないようフロアを出ると、すぐ近くにある休憩所の自販機に向かった。
ジャケットのポケットから折りたたみの革の財布を取り出し、自販機に硬貨を入れる。
ホットの飲み物の、ある一つのボタンを押すと、大きな音を立てて缶が取り出し口に転がり出てきた。
佐藤のことを知りたいと思った時からずっと見てきて知った、佐藤が愛飲しているミルクティーを購入したのだ。
仕事中のふとした一休みの時や休憩中このミルクティーの缶片手に他の社員と談笑しているのを見て、知った。
佐藤が、何を飲んでいるのか、どんな飲み物が好きなのかとても気になり、ずっとさりげなく見ていたのだ。
我ながら、ストーカーみたいで気持ち悪いと思う。
苦笑いを浮かべて、ミルクティーと、一応選べるように購入したコーヒーの缶(たまに佐藤が飲んでいるカフェオレ)を持って、フロアに踵を返す。
熱いなと思いながら、缶の上部を持って佐藤のいるフロアに戻る。
と、フロアに一歩足を踏み入れ、席の配置上、フロアの出口に背中を向けるよう座っている佐藤を見た途端、違和感を感じた。
……ん?