本日、結婚いたしましたが、偽装です。
微かに、佐藤が震えているように見えたのは、俺の気のせいだろうか?
俺は、ゆっくりと佐藤に近づいた。
遠くからでは良く見えなかったが、1メートルほど近づくと、佐藤の様子が良く見えた。
パソコンのキーボードを叩いていた手は膝の上に置かれぎゅっと拳が握られており、画面を一心不乱に見つめていた顔は、項垂れたように俯いている。
たったの数分前と全く違う佐藤の姿に、俺は首を傾げた。
もしかして、疲れているのだろうか?
ここ一週間夜遅くまで残業をしていたのだから当然、疲労は溜まっているに違いない。
そう思い、俺は佐藤に声をかけた。
「佐藤、もう帰っていいぞ。お疲れ。
ほら、コーヒーかミルクティー、どちらか選べ。飲め」
違和感を感じながら、俺はそう言って温かい2つの缶を佐藤のデスクの上に並べた。
「課長…」
佐藤が、驚いたようにぱっと顔を上げ、少し掠れた声で呟いた。
えっ……?
俺は、感じていた『違和感』の正体を知り、目を見開いた。
俺を真っ直ぐと見つめた瞳は赤く潤んでおり、溢れそうなほど溜まっていた涙が、その可憐な瞳からすーっと、流れ落ちた。
それを合図に、大きく見開かれた瞳から、次から次へと涙が流れ始めた。
佐藤の頬に、幾筋の涙の跡が残り、後ろの方にある廊下の照明で、きらりと光った。