本日、結婚いたしましたが、偽装です。
俺は佐藤の言葉の意味が分からず、小首を傾げた。
「佐藤、一体何を言っているんだ?」
「へ…?」
そう訊くと、言った本人の佐藤が俺の質問にぽかんとする。
「断るのが失礼だとか俺はそんなこと一度も言っていなければ思ってもいないけどな。ていうか、佐藤、もしかして何か勘違いしていないか?」
何故佐藤が、俺の食事の誘いを断るのが失礼だと言うのか分からなかった。
俺はそんなこと、微塵も思っていないのに何故だ。
逆に、誘って悪かったと、残業させた上に食事にまで付き合わせるのは失礼だと思っているのに。
何故なんだ。
「…勘違いって…。え、課長、怒っているんじゃないんですか…?」
……ん?
俺は、そう思われる訳がもっと分からなくなった。
「怒っている?俺が?」
なんで、佐藤はそう思っているんだ?
俺が、いつ怒った?
「はい。部下に誘いを断られたらあまりいい気持ちにならない上司の方もいると聞いたので、課長も部下の私に、…しかも失敗ばかりして色々と迷惑ばかりかけている私が課長の誘いを断ったから、怒ったのかな…って、」
佐藤は、俯いて恐る恐る、そう言った理由を俺に説明する。
……んん、要するに、佐藤の上司である俺がせっかく食事を誘ったのに、俺の部下である佐藤にそれを断られて、ヘソを曲げて不機嫌になって怒ったのではないかと思っているのか。
確かに、ウチの部長も飲みの誘いを断ると嫌そうな顔をして、『上司の誘いを断るなんてちょっとチミ、偉そうじゃない〜』と言ってくるが、俺は自分が断られてもそんなことは思わない。
自分がされて嫌なことは、相手にしない。
だけど俺は、佐藤に俺のことをウチの面倒な部長と同じだと思われていることが信じられなかった。
「はあ⁈」
俺はひっくり返った声で、突然叫ぶ。
佐藤が驚いて、肩を跳ね上がらせた。
「んなんで怒るわけねぇーだろ。ウチの部長じゃあるまいし、誘いの一つや二つ断られたくらいでいちいち腹立てるほど俺は、狭量じゃねえよ。何勝手にそうだと思い込んで決めつけてんだよっ」
俺は、思わず会社の時とは全く違う、素の自分で佐藤にまくし立ててしまう。
佐藤も突然豹変した俺を、顔中に疑問符を付けて見ている。
俺は、部下の事情や意思を配慮せず自分の要望を押し付けて強制的に付き合わせる上司だと思われたことに、腹を立てているわけではなかった。
佐藤にそう思われていることが不本意だから、不愉快になったわけではなかった。
ただ、佐藤を心配しているのにそれが本人に全く伝わらない歯がゆさやもどかしさで、『勝手に思い込んで決めつけて欲しくない』と言ったんだ。
……佐藤、俺は、ただ心配してただけなのに、怒っていると思ってんだよ。