甘い魔法にかけられて
ピピピピピピピ・・・

無情なアラームを
自然にスヌーズになるまで聞いて

気怠い身体を起こす

「行きたくない」

どんな顔をしてKYに会うのか
ブツブツ独り言が漏れる

いつも通り準備が出来ると

バッグの中の携帯がオルゴールを鳴らす

・・・こんな朝に誰だろう

画面に表示されたのは見知らぬ番号

・・・出たくない・・・出るもんか

諦めてくれるのを待っているつもりが

何度も何度もオルゴールの曲が巡り
渋々通話ボタンをスライドした

「柚ちゃ~ん、遅刻するよ!早く降りといで」

「は?」
この声はKY
いつの間に番号??

下がる気分を伊達メガネと
顔を隠すようにストレートにした髪で
盾にしながら階段を降りた

歩道の真ん中には
KYがいつものスーツ姿で白い歯を見せる

「お隣さんとして仲良くしなきゃね」

「だって番号教えてくれたの柚ちゃんだよ?」

脳天気な笑顔をスルーし
自転車に跨った

・・・携帯番号教えた?

・・・軽い、軽過ぎる

自分の馬鹿さ加減に泣きそうになる
こちらの気分などお構い無しに

「この距離なら歩いた方が健康的だよ」

「柚ちゃ~ん」

・・・懐きすぎよ

・・・なにが柚ちゃ~んよっ

革靴をカツカツ鳴らして付いてくるKY
いつもならダラダラ漕ぐ自転車なのに

今朝は逃げるように強めにペダルを踏む

それでも大差なく
早足程度のKYに追いつかれ

意に反して
一緒に出社となった
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