甘い魔法にかけられて
午後からの仕事も
“柚ちゃ~ん”攻撃に負けず

あくまでも仕事上の付き合い
という雰囲気だけを出し続けた

定時で会社を飛び出すと
後ろを気にしながら

自転車を漕ぐ

・・・もしも付いてこられたら

自意識過剰なコミュ障は
一心不乱にペダルを漕ぎ

文具店に到着すると
店の手伝いもそこそこに

飲み会からの状況を
いつになく声を張って奥さんに報告した

「柚ちゃん、お酒に飲まれたのね」

「そうなんです」

「でも・・・そのKYさんは強引に襲ってきたりしなかったんでしょ?」

「ええ、まぁ」

「それなら紳士的じゃない??それにイケメンなんて素敵~」

・・・イケメンなんて一言も言ってない

奥さんはまた恋バナへと話をすり替え

「今度の出張が2人のチャンスね」

目をキラキラさせた乙女のような口振りに
ハーーーっとため息が漏れた

・・・チャンスって

・・・そんなこと

白い歯を見せて笑うKYを思い出し
少し緩む口元

・・・ダメダメ

奥さんの手料理を食べながら
いつまでも続くお喋りだった
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