甘い魔法にかけられて
一緒に出ようと誘うKYを無視して
電車の駅へ別々で集合した

先に切符を持って改札脇で待っていると
カツカツと遠くから革靴の音が聞こえ出す

・・・来たかな

別人かもしれないのに視線が探す

・・・楽しみにしてる?…まさか

・・・足音まで覚えたの?…うそ

これまでと違う自分の変化に驚く

足音の主は
笑顔でやって来たKY

初めて見るタイプのスーツだった

とは言うものの
背中と膝下しか知らないスーツ姿


「これ」
切符を差し出し

少し遅れてホームへ入ると
KYのスーツの後ろから商品タグがぶら下がっていた

「あの・・・」

小走りに近づくと
急に立ち止まったKYぶつかった

「おっと」

「イタタ・・・」

低い鼻をぶつけ
前のめりになりそうなタイミングで

ガシッと腕と背中を支えられ
朝からホームで抱擁

「・・・やっ、あの・・・」

「あ~柚ちゃん大丈夫?」

慌てているのはむしろ私で
KYはいつも通り涼しい顔で笑っている

「大丈夫・・・あのスーツ8万5000円ですか?」

「え?なんで分かるの?」

「値札付いてます」

口元を隠しクククと笑うと
長い手で器用にタグを外した

「いや~着替える時には気づかなかった」

人懐っこく笑う口元に
釣られて笑っていることに気付く

・・・いかんいかんKYのペースじゃない

頭を左右に振りながら
特に会話も弾ませず

電車と新幹線を乗り継いで着いた先は雨だった
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