甘い魔法にかけられて
KYの魔法
「あ、あ、あの・・・」

・・・そういえば次は通報してやるはず

・・・ついでに言うと大家も共謀罪のはず


口を開けているのに
声を出せない程驚き過ぎて

間違いなく阿呆面で
枕をギュッと抱きしめた


ダサいKYは

「携帯の電源落ちてるから」

たった今ベランダから2回目の不法侵入を
果たしたとは思えない落ち着いた声を出した後

ベッドの脇にドカッと座ると
ボサボサの髪をかきあげる

・・・え?

枕元に置いたスマートフォンを手に取ると
ホームボタンを押す

「あれ?」

反応しないスマートフォン

「何度電話しても出ない、今回は緊急対応だから通報は無し」


ベランダからやって来たことを
私のせいにしたKY

スマートフォンの電源を入れると
不在着信を知らせるベルが
何度も何度も鳴る

「ほらね」

呆れた風の声に
こっちが悪いと言われているようで

「す、すみません・・・で、何か?」

通報覚悟でベランダから侵入した理由を尋ねる

「差し入れありがとう。でも、あれくらいでは一宿一飯の恩義にならないから・・・それを言いたかったのと」

「のと?」

・・・お礼かと思いきやもっと寄こせと催促ですか

心の中で毒づくと
黒縁眼鏡の奥の目がキラリと光った

「関係ないってあんな酷い事を言い逃げした理由を聞かせて、じゃないと・・・」

「じゃないと?」

・・・含みを持たせ過ぎだ

「聞くまで帰らないから」

言うだけ言うとニコっと笑った


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