甘い魔法にかけられて
囚われました
「ハァ」

・・・っとイケナイ

気付けば何度も溜息を吐く口

原因はもちろん“航平さん”

3ヶ月と期限が決まった出向だから
残すところあと1ヶ月・・・。

急速に距離を縮めた1ヶ月目

前半、震える程の溺愛に溶かされたのに
後半‥県の隅々まで販路を広げる為の出張で
ほとんど顔を見ていない2ヶ月目

あと1ヶ月しかない

LINEも電話もするけれど
やっぱり会いたくて

好きになればなるほど
欲張りになって

でも・・・それを口にすると
困らせてしまう

心の中に広がるモヤモヤは
一日、一日と濃さを増して

それを誤魔化すように溜息に頼っているみたい


初めての恋だから
もちろん遠距離恋愛なんて想像もできなくて

遠距離恋愛って
そのうち自然消滅するって聞いたこと・・・ある

だからと言って
相談する友達もいない

・・・あ〜ぁ

ベランダに出て
斜め上の航平さんの部屋を見上げる

・・・居なくなっちゃうのか

ポツリ吐き出した自分の声に

鼻の奥がツンと痛んだところで

部屋の中からオルゴールの音色が聞こえてきた

・・・航平さんだ

彼からの着信だけ音色が違う
少し浮上した気分で画面に触れた

「・・・もしもし」

(柚)

名前を呼ばれただけで
堪えていた涙腺が決壊した

(・・・どうした?声が震えてる)

「んーー」

(ごめんな、寂しい思いさせて)

何も言ってないのにどうして分かるんだろう

「うん」

(週末には帰れそうだから待ってて)

「うん」


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