甘い魔法にかけられて
一方的に話す航平さんの話しに
相槌を打つだけの会話だったけれど

不安に押しつぶされそうな気分を
浮上させるには充分過ぎる時間だった

少し先に会えることを楽しみに待ちながら
寂しい夜を乗り越えた





金曜日


【少しでも早く会いたいから
駅に迎えに来て欲しい】

そんなLINEを貰ったから
本当は気が進まない駅前広場の時計の下で
彼の帰りを待っている

彼に買って貰ったワンピースを着たのは
久しぶりの再会を喜んで欲しいため

週末の夜だからなのか?
広場は待ち合わせの人や学生達
ものすごい人でごった返している

・・・酔いそう

慣れない人混みに
自信のなさが重なって

気がつけばパンプスのつま先だけを見ている

握りしめたスマートフォンは
電車の到着時刻を過ぎても一向に震えず

こんなことなら改札近くで待ち合わせれば良かったと不安な気持ちが膨らんだ

そんな時
雑踏の中にカツカツと響く音が近づいてきた

・・・航平さん

嬉しい気持ちが頭を持ち上げ
頰は笑顔を作った・・・

それなのに

「ねぇ、彼女さっきから動いてないけど
誰かと待ち合わせ?
来ないなら俺と出かけようよ」

微笑んだ相手は見知らぬ人

明るめの茶髪が
動く度にサラサラと揺れ

左耳のピアスが怖い

・・・っ

待ち合わせって言わなきゃ
そう思うのに
こんな風に声を掛けられたことがなくて
どうして良いのかわからない

「これも何かの縁っしょ」
「可愛いね」
「ワンピースよく似合ってるよ」
「俺のタイプなんだよね〜」

よくもまあこれだけ並べられるものだと
感心するくらい

口先だけの言葉を紡ぐ唇を眺めていると

「ほら行くよ」
腕を掴まれた


< 75 / 90 >

この作品をシェア

pagetop