甘い魔法にかけられて
人目もはばからず
抱き合う二人

映画なら素敵なんだけど
どうも恥ずかしすぎる

でも・・・
背の高い彼の腕の中は
あったかくて心地いい

「よしっ、少し充電できた」

柔らかに降った彼の声に
顔を上げると

首を傾けた顔が近づいて
オデコにチュッとリップ音が響いた

「ーーー。」

「恥ずかしいって顔に書いてある」

ククと笑って離れると
スーツケースを持っていない手に誘われた

「ほら」
差し出された手を
躊躇いがちに掴むと目を細めた彼

「お腹ぺこぺこだから‥急ごう」

「うん」

右手の温もりにホッとして
触れられることの安心感が広がった

自分で思うよりずっと彼のことが好き
毎日、毎日膨らむ気持ちは
彼への真っ直ぐな愛情

好きになればなるほど
1ヶ月後の別れが近づく程に
離れたくない思いも膨らむ

・・・どうすれば良いのかな

素直に言えば彼を困らせるかもしれない

もしかしたら・・・
ここに滞在する間だけの関係かもしれない

不安な気持ちは想像力を
間違った方向へ動かし

負のスパイラルへ陥ってしまう

それを払拭するように
頭を左右に振って
嫌な気分を吹き飛ばそうとした

「どうした?」

「え、っと、あの・・・なんでもない」

捨てられそうな妄想を広げてましたとも言い難く

引きつり笑顔を作る

「なんか・・・凄い百面相してたよ?」

顔を覗き込まれて
更に焦って言葉を濁した
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