甘い魔法にかけられて
おまけ
パラパラと捲るアルバムには
ドレスを着たぎこちない笑顔の私と
それを穏やかに見つめる航平さん

みんなに囲まれた写真には
ブーケを持つ優里亜さんと
その側に立つ槙野さん

私の側で緊張した面持ちの社長は
花嫁の父の役を引き受けてくれたせいで
燕尾服を着て真っ直ぐ前を向いている

幸せで溢れているアルバムは
毎日何度見ても飽きない


・・・幸せ


家事を済ませると
リビングのソファに座り
毎日眺めるのは

2ヶ月前に挙げた結婚式の写真達

彼の腕の中でプロポーズを受けてから
瞬く間に時は流れて

気がつけば本社に戻った航平さんと
電車で二駅の所に借りたマンションで暮らしている

よく1ヶ月で全部終わらせたと思い出すたび

少し強引ながらも
必ず歩調を合わせてくれた彼がいたからだと思う







「上村さん、いや、柚ちゃん
ここは君の第二の故郷だから
何かあったらいつでも帰っておいで」

結婚と退職の報告をした日
社長は嬉しそうに目を細めながら
そう声を掛けてくれた

みどり屋で話をしてから
5年余り・・・

コミュ障の自分に
いつも優しく接してくれた社長夫妻

返事もお礼も何も紡げない口は
堪えきれずに子供みたいに声を上げて泣いた

「あら、泣かしちゃった」

優しく肩を抱いてくれた奥さんも
目頭を押さえて一緒に泣いてくれて

幸せな環境に居たことを
嬉しく思ったと同時に
手放す寂しさも味わった



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