甘い魔法にかけられて
ピンポ〜ン

・・・来た

思い出に浸る時間を邪魔するのは

「おはよ〜柚ちゃん」

笑顔でひょっこり顔を出した優里亜さん

「おはようございます」

「今朝はこれっ!」
そう言って渡されたのは
綺麗なマーブル模様のクッキー

「さぁお茶しよう♩」

どうぞも言わないうちに
サッとスリッパを出して
部屋に入る優里亜の背中を
持たされたクッキーと共に追いかけた


私の投げたブーケトスを
ジャンピングキャッチした優里亜さんは

つい先月結婚式を挙げた

そして・・・

頼んでもいないのに
一階下の406号に新居を決めた

んでもって
週に2回は必ず手作りお菓子を持って
家事の終わった頃にやって来る

・・・見られてる?

・・・いや、エスパーか?

友達も居ない都会で
引きこもりになると思われた日々は
優里亜さんの登場で
ため息が出る程忙しくなった

それは・・・

「ねぇねぇ柚ちゃん!お芝居のチケット貰ったのよ〜一緒に行きましょう?帰りにはほら、いつものスーパーで卵買って帰らなきゃね」

近所のスーパーの特売に合わせて
何かしらイベントを持ってくる優里亜さん

航平さんに報告はするけれど
“楽しそうだね”って
出掛けることを喜んでくれるだけ

・・・ま、良いか

初めての主婦友ってことで
長いものには巻かれよう

優里亜さんのどこに長いものがあるかは置いておき
ちっとも退屈しない専業主婦に
コミュ障だったことが
遠い昔の事に思えた


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