土方歳三の熱情
あの夜、土方さんが私に示した選択肢は二つだった。

一つ目は
土方さんからの密命で単独行動していた篠田は倒幕派の手にかかって殺されたらしいという噂を流し、
そのまま姿を消すということ。

その場合にはこれから先けっして新撰組の隊士に目撃されないように京の町を離れて、
どこか遠くの町で一人で暮らさなくてはいけない。

二つ目は
できるだけ早く女だということを皆に明かして弟と父に切腹させて責任を取らせるという方法。

その場合には土方さんが女の命を取るのは士道に背く行為だと主張して私の命だけは助けてくれるという。

「その上でおまえは新撰組を離れ、堂々とこの家に住めばいい。
もちろんおまえがそれを望むならば、だがな」

と土方さんは言ってくれた。

そして最後にこう付け加えた

「オレが、篠田が女だとは気づいていなかったと言える期間にも限度がある。
七日以内にどちらを選ぶか決めろ」

と。

そしてその七日目が今日だ。

今夜までに私は弟と父を死なせて土方さんと暮らすか、
家族を守って見ず知らずの土地で一人ぼっちで生きるかを決めなくてはいけない。

時間は迫っているのに、
私はまだ何も決められずにいる。

私は木村さんが何の話をしているのかもよくわからないまま適当に相づちをうちながら、何も考えられずにいる。
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