その手が離せなくて






「――んっ」


不意に目が覚めて、重い瞼を開ける。

ぼんやりと開けた世界は真っ暗で、何も見えない。

どうして自分がここにいるのか、ここで何をしているのか一瞬分からなかった。

それでも、徐々にハッキリする意識の中で今までの事をぼんやりと思い出す。


宴会で一ノ瀬さんの奥さんの事を聞いて。

逃げる様に外に飛び出して。

我武者羅に走って――・・・・・・。


そこまで考えて、ようやく現状を把握する。

一気に血の気が引いて、勢いよく体を起こした。

それでも。


「痛っ」


突然体中に走った激痛に悲鳴を上げる。

起こしかけた体を止めて、痛みが激しかった足首を押さえた。


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