その手が離せなくて

「寒っ」


震える体を摩って、俯く。

このまま死ぬのかな。なんて、まるで他人事の様に思った。


罰が、当たったのかもしれない。

結婚している人と、あんな事してしまって。

知らなかったとはいえ、私はしてはいけない事をしてしまった。


「ごめんなさい・・・・・・」


名前も顔もしらない『その人』に謝る。

膝を抱えて、零れ落ちる涙を堪えて。


――・・・・・・それでも。


ふと、自分に問いかける。

仮に一ノ瀬さんが結婚していると分かっていたとしても、私は恋に堕ちなかっただろうか?

惹かれていなかっただろうか?


思い出すのは、あのビー玉の様な瞳。

精悍な顔を惜しげもなく崩して笑う、あの笑顔。

キスをした後に私を見つめた、その眼差し。

私を呼ぶ、声――。


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